インタビュー/名古屋市立大学 大学院薬学研究科 田上辰秋先生

ユーザーインタビュー

インタビュー風景:右側が田上先生、左側が弊社前田
インタビュー日:2018年4月9日
名古屋市立大学 大学院薬学研究科 田上辰秋先生
個々の患者さんに応じて最適の薬を設計するツールとして
活用されるようになるかも知れません。

ご自身の研究分野について

私は、名古屋市立大学で大学教員をしています。専門分野は「製剤学・薬物送達学」で、これらの授業を担当しています。
製剤学は、医薬品の物理化学的な性質から製造管理、品質評価に関する学問です。
現在、私が所属する尾関研究室では、機能性を高めた新しいタイプの製剤に関する研究をしています。

薬物送達学は、多分ほとんどの人にとっては聞きなれない言葉だと思いますが、その名の通り、薬物を体内の目的の場所(疾患部位)に、目的の量を、目的のタイミングで運ぶための方法論の学問です。
薬には色々な種類がありますが、例えば抗がん剤の場合、体内の正常組織には届けずに、がん細胞だけをピンポイントで叩くのが理想です。それができる最適の方法を研究しています。
私自身は、特にリポソームというナノカプセルを専門としています。なお、薬物送達学は、英語ではDrug Delivery System (DDS)と呼ばれています。

3Dプリンターを導入した理由

3Dプリンターを導入した理由ですが、2015年8月に3Dプリンターで製造された抗てんかん薬(商品名:スプリタム(SPTITAM))の錠剤がアメリカの食品医薬品局(FDA)に認可された事を知ったのがきっかけです。
また、製薬業界で3Dプリンターがトレンドとして広がりつつあったのも影響していると思います。
実際にアメリカの学会で3Dプリンターを使った錠剤に関する研究が発表されたこともあり、3Dプリンター錠剤に興味を持ちました。
普通の錠剤は打錠機という機械を使って製造しますが、3Dプリンターを使う事で色々な形状・構造のユニークな薬が作れると考えました。

3Dプリンター錠剤(スプリタム)のメリット

3Dプリンター錠剤であるスプリタムは、空隙(すきま)が多く、液体にいれるとすぐに溶けるように作られています。
私たちが目にする錠剤の多くは、生理活性を持つ成分(原薬といいます)はわずかであり、残りが乳糖などから作られている場合が多いのですが、この錠剤は、ほとんどが原薬から構成されています。粉末積層造形方式の3Dプリンターを用いて製造することにより、ほぼ原薬から構成されているこの錠剤を口の中で容易に崩壊させることに成功しています。
口に入れると容易に壊れる錠剤は、ものを飲み込む機能の低い子供や高齢者に対して有効です。
また、3Dプリンターを活用する事で、抗てんかん薬のように需要が比較的少ない薬をコストを抑えて作れる可能性があります。

カスタマイズ薬製造の可能性も

また、3Dプリンターを使う事で、患者さん一人ひとりに合わせたカスタマイズ薬を製造することも可能になります。
例えば、子供に薬を飲ませる場合、薬剤師が大人用の薬を割ったりすりつぶしたりして量を調節することがあります。
もともと子供用の規格の薬がないケースが多いのです。そのようなケースでは、3Dプリンターを使う事で子供用の薬をカスタマイズして製造できるかもしれません。

3Dプリンターを導入して最初に行った事

3Dプリンターを導入して最初に行った事ですが、当初は3Dプリンターに関する知識が全くなかったので、そもそも3Dプリンターで錠剤が作れるのかというところから始めました。
論文なども参照し、医薬品の添加物として使用実績のあるPVA(ポリビニルアルコール)を素材にテストを行いました。
薬をPVAにしみこませたり、あるいは混ぜたり、様々な形状にしたり密度を変えたり等々色々試しました。
それらの一連の結果をまとめ、2017年に論文化し、学会で報告を行いました。

名古屋市立大薬学部、薬物送達学分野に設置されている弊社の3Dプリンター

3Dプリンターのフレキシビリティ

3Dプリンターを研究用に導入して感じた事ですが、3Dプリンターはフレキシビリティが高く、様々な用途で使える可能性があり、発展性が高いです。
色々なデザインのものが作れ、アイデア次第で色々な事に使えると思います。

製剤分野の研究では、既に3Dプリンターでポリピル(Polypill)という、複数の有効成分が含まれている錠剤をワンステップで製造する事が考案されています。
例えば、高齢者のように複数の錠剤を飲む必要がある人や、同じ錠剤でも薬効が違う人(ある人は効きやすく、ある人は効きにくい)に対し、薬の種類や量を考慮して調製する事が可能になります。
このようなシステムでは、薬が患者さんが抱えている疾患や患者さんの状態に対応して調製されることから、オーダーメイド型の医療として期待されています。
現在、3Dプリンター錠剤・医薬品のモデルを考案し、試行錯誤で色々なものの作成を行っていますが、この分野に伸びしろがある事を実感しています。

3Dプリンターの利用頻度

3Dプリンターの利用頻度ですが、時期によってまちまちです。私自身が研究用に使うほかに、3Dプリンター医薬品を研究テーマにもつ学生も卒論研究や研究発表で使用しています。
忙しい時は非常に忙しいです。研究発表の時期などが近付くと、データを取るために3Dプリンターを動かす事が多くなり、連日稼働している事もあります。

ニンジャボットを選んだ理由

ニンジャボットを選んだ理由ですが、第一にニンジャボットが国産だったことです。トラブルの際などにすぐに対応してくれると思いました。
海外のメーカーだと、距離・時間・言語の問題でサポートを受けることが難しいと思いました。
値段的には、ニンジャボットは必ずしも安くありませんが、安すぎるのもクオリティの問題があると思いましたし、購入するまでの対応も良かったです。

今の3Dプリンターについて改善を希望する点

今の3Dプリンターについて改善を希望する点ですが、造形スピードをもっと速く、あるいは一度にたくさん造形できるようになればいいと思います。
生産の効率がもっと上がるといいと思います。製薬業界では、生産性と正確さが要求されます。
3Dプリンターによる薬の製造はオーダーメイドで作るとしても、ある程度の生産スケールが確保される必要があります。
病院や調剤薬局で薬を調製するにしても、患者さんを待たせなくする必要もあります。

また、製剤分野の研究者としては、例えば粉末積層造形方式の3Dプリンターやゲル射出型の3Dプリンターなどの、医薬品の製造に特化した3Dプリンターが登場する事を期待しています。
そのためには、製剤研究者だけではなく、3Dプリンター開発者、ソフトウェア開発者などの連携が必要になると思います。

3Dプリンターが変える社会

製剤分野の研究者としての立場の意見ですが、先述したオーダーメイド医療で3Dプリンターの活躍が期待されています。
患者さん一人ひとりによって薬の効き方は異なります。身体的な面(身長、体重、性差、人種差)によって効き方は異なりますし、高齢者になると肝臓や腎臓の機能が低下する方が増えてきますので、薬の副作用が出やすいと考えられています。
このため、3Dプリンターは、個々の患者さんに応じて最大の治療効果と最小の副作用をもたらす、最適の薬を設計するツールとして活用されるようになるかも知れません。

また、医療分野において3Dプリンターは、ヒトの代わりの調剤機械や調剤ロボットのような形で医療機関に導入されると考えられています。
そのような3Dプリンター、3Dプリンター医薬品が登場し導入されるまでには、規制や法的整備(レギュレーション)が必要になると思います。

これから3Dプリンターの導入を検討される方へのアドバイス

3Dプリンターで何を作りたいか、どのようなことをしたいか目的を決めて購入される事をおすすめします。
次に、3Dプリンターを購入されたら3Dプリンターを使って楽しむことが一番重要だと思います。
最初はある程度試行錯誤があるかも知れませんが、サポートを受けたりするうちに段々と慣れてくると思います。

また、3Dプリンターの周辺環境が目まぐるしく変わっており、その環境変化や技術向上によって3Dプリンターが出来ることも大きく変わってゆくと思います。
3Dプリンターを導入し、世界で行われていることを知ることにより、時代の流れを感じることが出来ると思います。
医薬業界も例外ではないと思います。今後も社会に貢献出来るように、3Dプリンターを使った医薬品の研究を行ってゆきたいと思っています。

研究室で記念撮影。左側が田上先生、右側が弊社社長の佐藤
名古屋市立大学薬学部 研究棟前の写真
名古屋市立大学大学院薬学研究科
薬物送達学研究室のホームページ
http://www.nagoya-cu.ac.jp/phar/grad/soyaku/seimei/dds.html
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