インタビュー/名古屋大学医学部附属病院 病院助教 加茂前 健先生

ユーザーインタビュー

インタビューにお応えいただく加茂前先生
インタビュー日:2018年1月23日
名古屋大学医学部附属病院 病院助教 加茂前 健先生
Ninjabotは完成度が高く、メンテナンスも
しっかりやってくれそうだったので選択しました。

医学物理士という仕事について

私は医学物理士として大学病院に勤務しています。医学物理士は、放射線医学における物理的課題を扱う専門職です。医学物理士の仕事でわかりやすいのが放射線治療です。
医学物理士は、医師と連携し患者さん毎に効果的かつ安全な治療計画を立案し、その計画通りに治療が行えるよう機器の精度管理や検証を行っています。
患者さんと接することは少なく、「縁の下の力持ち」と言われることもあります。

3Dプリンターを導入した理由

私が3Dプリンターを導入した理由ですが、基本的には研究目的です。
具体的には、放射線の量を測るためのファントムと呼ばれる機器を作成するのが目的です。
放射線治療を行う際は、患者さんに治療を行う前に、放射線が正しい量で照射されているかを確認する必要があります。強度変調放射線治療 (IMRT) などの高度な放射線治 療では、更に正確な検証が求められます。
その際にファントムを使うのですが、一般的に使われているファントムは、箱状や板状の汎用的な形をしています。それらは患者さんの体と同じ形状ではありません。
3Dプリンターを使えば、患者さんの放射線を当てる部位の形状を模したファントムを作成できます。
それを使用すれば、患者さんが実際にいるかのような状況で、擬似的に患者さんの体内の放射線量を測れるようになると考えたのです。

3Dプリンターでファントムをカスタマイズ製造

実際に3Dプリンターでファントムを作る方法ですが、元データは患者さんのCT画像などです。
CT画像のDICOMデータをOsiriXというソフトでSTLに変換し、3Dプリンターで出力します。
これまでに頭部のデータを基にNinjabotで出力し、線量計などを入れて試してみました。その一連の内容は論文にまとめて公開しています [1]。

Ninjabotの造形の精度ですが、悪くはないのですが、PLAを100%インフィルで出力すると、冷え固まる際に底面が台座から剥がれ反る傾向があります。
また、造形時間が長いのも難点です。論文で作成したものは、2.5 cm高さの頭部断面ですが、1~2日かかります。この辺が改良されるとさらにいいと思います。あと、骨の密度に近いような素材があるといいですね。

FDM方式の3Dプリンターを選んだ理由

FDM方式の3Dプリンターを選んだ理由ですが、ひとつはコストです。
Ninjabotもそうですが、比較的手が出しやすい価格のものが多いです。
光造形方式のものも検討しましたが、価格が高く、材料も高いです。FDM方式の3Dプリンターは、材料が安いのもメリットです。
Ninjabotは完成度が高く、メンテナンスもしっかりやってくれそうだったので選択しました。

医療における3Dプリンターの今後

医療における3Dプリンターの今後ですが、健康保険収載されている対象の拡大や造形コストに似合った点数化がされると、更に普及するかもしれません。
一方で、現在の3Dプリンターは普及の成長曲線の踊り場にあると考えます。視覚的に病気の位置を確認する臓器モデルなどは一定の完成度に達してきたと思います。
では次のステップは?、それを考えなければ、3Dプリンタの医用応用は5年後には陳腐化しているかもしれません。

私自身、病院の中で3Dプリンターを使っていく事に大変期待しています。
大きな病院では、臓器モデルなどを3Dプリンターで出力するための3Dプリンティングセンターなどがあればいいのかもしれません。

私の専門である放射線治療領域では、ボーラスが3Dプリンターで作れるようになるといいですね。
放射線治療ではファントムの他に、ボーラスという5~10 mm程度の体厚補償シートを使います。
例えば皮膚表面や浅い部分の病巣を治療する場合、ボーラスを皮膚上に置きます。それにより、病巣に必要な線量を照射でき、かつ周囲の正常組織への余分な照射は減るというわけです。
それぞれの患者さんに合わせたボーラスを3Dプリンターで作れるようになれば、治療精度も上がると思います。耳や鼻など複雑な形状を治療する場合はなおさらです。
医療機器としての安全性を担保する必要があるなど課題はありますが、これが実現すると、かなり普及するのではないかと思います