インタビュー/静岡理工科大学 理工学部 武岡成人先生

ユーザーインタビュー

インタビューにお応えいただく武岡先生
インタビュー日:2018年4月17日
静岡理工科大学 理工学部 武岡成人先生
冶具や試作品の製造がしやすくなり、
製造にかかる時間を削減出来ました。

ご自身の研究分野について

私は、静岡理工科大学で音の研究をしています。音の世界では今、3Dプリンターを様々な用途で活用しようという機運が高まっています。
例えば、スピーカーのホーンを作る時は、エクスポネンシャルカーブと呼ばれるカーブをデザインする必要がありますが、ホーンや人間の発音の仕組みを模擬した装置など,精巧な装置を要する研究に対して3Dプリンターを用いて実験した報告を頻繁に目にするようになってきました。 3Dプリンターが登場する前は、設計図を描き、金型を発注し、外部の業者に試作品などを作ってもらっていました。
コストと時間がかかるため、それなりのプロジェクトでないと試作品を作るのは困難でした。

なお、私の専門領域ですが、多チャンネル制御と呼ばれるものです。たくさんのチャネルをコントロールして音を出すという研究です。
具体的には、パラメトリックスピーカーというたくさんのチャネルから超音波で音を出すスピーカーなどを研究しています。
超音波で音を出すと、まっすぐに届く音が出せるようになります。
また、音を本当に立体的に再現するには、大量のスピーカーを1㎝間隔で敷き詰める必要があります。
そうしたハードウェアを含めて新しい音の再生方法を研究しています。

武岡先生が開発した多チャンネルパラメトリックスピーカー

3Dプリンターを導入した理由

3Dプリンターを導入した理由ですが、新しいスピーカーの試作品を作る際に使う冶具などを作るためです。
オリジナルのスピーカーを作る際、パーツなどを固定する必要があります。
パーツを固定するための冶具を外注で作るのは手間もかかります。
3Dプリンターを使えば、簡単に作る事ができると考えました。

また、多チャンネルのヘッドホンなど新しい技術にも挑戦しているのですが,そのプロトタイプも3Dプリンターで作っています。
以前は、パイプなどの材料を買ってきて工作していましたが,精度やトライアル&エラーにかかる労力に問題がありました。
3Dプリンターであればパラメータを調整しセットするだけです。

3Dモデルの作成方法

3Dモデルの作成方法ですが、学生がそれぞれ3DCADソフトなどを使って作っています。
今は学生の方がその辺に詳しく、3Dモデルを作りなさいと指示すると、ネットなどで調べて作ってきます。
この冶具の3Dモデルも学生が作りました。

3Dプリンターを導入して得られたメリット

3Dプリンターを導入して得られたメリットですが、何よりも冶具や試作品の製造がしやすくなり、製造にかかる時間を削減出来たことです。
以前であれば、学生が手作業で作ったりしていましたが、実験などで使えないレベルのものが多かったです。
今は3Dプリンターがあるので、そうした問題から解放されています。

ニンジャボット本体

ニンジャボットを選んだ理由

ニンジャボットを選んだ理由ですが、ひとつは造形サイズです。
もともとスピーカーの試作品を作る事を想定していたので、それなりの造形サイズが必要でした。
ニンジャボットの300シリーズであれば30㎝角程度のモノが作れます。

また、ニンジャボットがデュアルエクストルーダーを搭載している事も理由です。
まだ実現は出来ていませんが、例えばヘッドホンなどを柔らかい素材と固い素材を組み合わせて作る事などを想定していました。

あと、サポートがあるのも助かっています。
同僚の先生で安い3Dプリンターを買った先生がおられますが、メンテナンスなどのサポートが受けられなくて困っています。
サポートが受けられることについては満足しています。

ニンジャボットの3Dプリンターについて改善を希望する点

ニンジャボットの3Dプリンターについて改善を希望する点ですが、造形精度の向上です。
音を吸収するための実験用の部品などをかなりの種類作りましたが、PLAのインフィル密度を上げても、私の環境では実験に耐えうるレベルのものは作れていません。
積層式で造形するためか、音が漏れてしまうのです。
研究者の中には問題ないとされている例もありますが現時点では音に対しては相当な厚みと密度が必要なのかもしれません。
この問題が解決されれば、音の世界で3Dプリンターが活躍できる範囲がもっと広がると思います。

なお、造形スピードについては特に問題と感じていません。
ある程度の大きさの部品を作るのであれば、1日程度の時間がかかるのはやむを得ないと思います。
とは言うものの、造形スピードが速くなるのは良い事だと思います。

あと、造形時の音が気になりますね。部屋の隅に置いて稼働させればいいのでしょうが、作業をしている時など、音が気になるときがあります。

実験で耐えうる精度が出せなかった部品

普段使っている素材について

普段使っている素材ですが、ほぼすべてPLAです。フレックス系の素材なども使ってみたいと思っていますが、今のところそこまで辿り着いていません。

大学内での3Dプリンターの利用状況

学内の3Dプリンターの利用状況ですが、ニンジャボットも含めて複数台稼働しています。
学科によっては学科で高額な3Dプリンターを購入しています。
ニンジャボットのようなFDM方式の3Dプリンターの他に、粉末造形方式の3Dプリンターもあります。
なお、3Dプリンターは学生と教員のどちらも利用しています。

これからの3Dプリンターに期待すること

電気の世界の話ですが、今、電子回路基板を直接プリントするプリンターで良いものが出てきています。
プラスチックのみならず、あらゆる素材を出力する3Dプリンターが続々と出てきています。
CADで基板の図面を書いて3Dプリンターで出力すれば、はんだ付けをする必要もありません。
私が所属する学科でも、そうした3Dプリンターに予算を付けています。

これから3Dプリンターの導入を検討される方へのアドバイス

これから3Dプリンターの導入を検討される方へのアドバイスですが、3Dプリンターで完ぺきなモノが作れると考えない方がいいです。
精度の高いモノをつくるには、それなりのノウハウやテクニックも必要になります。
3Dプリンターを購入される前に、そのことを知っておいた方がよいと思います。

左武岡先生、右ニンジャボット酒井
文責:合同会社ニンジャボット前田
静岡理工科大学 武岡先生のホームページ
http://www.sist.ac.jp/~takeoka/